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新しい原理に基づく強誘電体・圧電体の開発

 BaTiO3やPb(Zr,Ti)O3などに代表されるペロブスカイト型酸化物強誘電体・圧電体は,結晶学的な反転対称性の欠如に起因する圧電効果や非線形性光学効果を示します。また、自発分極をもたない常誘電相から強誘電相への構造相転移(強誘電相転移)に付随して巨大誘電率が観察されます。現在,これらの性質はアクチュエーター,キャパシター,センサー,光学素子などに利用されています。
 一方で、ペロブスカイト型酸化物強誘電体・圧電体の設計は2次ヤーン-テラー効果に基づく金属元素-酸素間の共有結合の形成に立脚しており,結晶構造の反転対称性を破るために特定の元素に特有の性質(Ti4+のd0電子配置やPb2+の6s2孤立電子対)を必要とします。利用可能な元素が制限されるため,膨大なペロブスカイトおよび関連化合物の中で反転中心のない結晶構造をもつ物質は5%もありません。

図1: NaRTiO4においてTiO6八面体回転によって結晶構造の反転対称性が破れる様子。右図の回転矢印は八面体回転の方向を示す。

 私たちは、層状構造を活用して、ペロブスカイト酸化物の場合とは異なる機構により結晶構造の反転対称性が破れることを発見しました。具体的には、n = 1のルドルスデン-ポッパー相NaRTiO4Rは希土類)において、結晶軸周りの「酸素八面体回転」によって圧電性が現れることを実験と理論によって明らかにしました(図1)。酸素八面体回転はペロブスカイト関連酸化物において最もありふれた構造歪みであることから、この成果は強誘電体・圧電体の新しい物質設計指針を提示するものです。

 この成果を発展させて、n = 2のルドルスデン-ポッパー相Sr3Zr2O7において、2種類の酸素八面体回転により結晶構造の反転対称性が破れ、間接型強誘電性が発現することを明らかにしました (図2)。同様の間接型強誘電性は(Sr,Ca)3Sn2O7でも観察されます。 これらのジルコニウム酸化物や錫酸化物の結果と既報のチタン酸化物とマンガン酸化物の構造-物性関係をまとめたところ、ペロブスカイト層の許容因子(トレランスファクター)とキュリー温度TCの間に良い相関(直線関係)があることがわかりました。

図2: (左) Sr3Zr2O7の光第二高調波発生 (SHG) の温度依存性。温度変化による光第二高調波発生の出現あるいは消失は、TC = 720 Kでの強誘電相転移を示している。TC以上の温度での結晶構造は酸素八面体回転と傾斜をもつ常誘電相であるが、温度を下げるとTCで酸素八面体回転の位相が変化し酸素八面体回転と傾斜をもつ強誘電相に構造相転移します。(右)Sr3Zr2O7に対する室温での分極-電場(PE)履歴曲線。自発分極があり、その向きを外部電場によって変えることができるため、この化合物は強誘電体です。